SNSで二人の友人とやりとりしていた音楽の話。
会話としてはとっ散らかったものなので、おかしな箇所もあると思いますが
これが全体的に興味深い内容だったので覚え書きを兼ねてまとめてみます。
お名前以外、原文お母さん(原文ママ)です。

クオリアの話まで広がっていきそうなテーマで、面白いんですよね。


【N.Aさん】
携帯音楽プレーヤーで音楽を聴く時イコライザーを入れるか、入れないか。
スピーカーとインナーイヤーじゃ音の存在感も違うし。
容量のために圧縮かけると音が劣化してしまう。
仕方ないから、イコライザーをかけたい気がするけれど、
プリセットの設定じゃ結局ろくな音にならない。
圧縮しなければいいけれど、携帯するからには妥協もしなければならない。
制作者の望む音っていったい? 悩ましい。ご意見ください。

【K.Fさん】
私は入れません。何か嘘っぽいよね。

【REI】
ロスレス圧縮をおすすめします。
制作者の意図通りの音で聴くことは厳密にはできないですから、
EQで聴いて気持ちが良いように調整できるならすれば良いと思います。
ただ、音楽のジャンルにもよりますね。

山下達郎さんはラジオでレコードやCDの音源を流す際に、
ProToolsを使ってオンエア向けの音質になるよう
全て自分でマスタリングしなおしていたそうです。
最終的にはそれしかないですよ、N.Aさん!

【N.A】
K.Fさん、前に聞いた通りですね。
それで、しばらくノンイコライザーできたのですが、
やはり、空気感、リズム隊の存在感など物足りなくて。

今はあまり見なくなりましたがステレオカセット、
モノラルラジカセ、コンポ、インナーイヤー、あまりに違いすぎて、
制作者なんて、あって、ないようなもの。と言っては言い過ぎかもしれません。
音楽のあり方、聞き方、接し方が全く違います。
やはりイコライザーをかけ、好きなように聞く方が良さそうです。
ロスレス圧縮かなり技術が高まっていることに期待。
以前、非圧縮サウンドをウォークマンで聞いて、
やっていたのですが、容量不足で諦めました。
マイミックスも、贅沢、高価なものと諦めましたが、随分個人でも可能になってきました。
あとは、それを要求するレベルの作品せいさくです、REI君。

【K.F】
N.Aさんは自分の聴きたい音にしたい、
REIさんは自分の聴かせたい音にしたい、
私はありのままの音を聴きたい、ということなのかな。

【N.A】
良い音とは?何か。難しいですね。きっかけは、K.Fさんの一言です。

クラシック、生音系の音楽は、一度空気に触れた音で、ホールの聴く場所にもよりますが、
正解らしき音があります。しかし、レコーディングを目的とした音作りでは、
はじめから電子的に記録されて空気を振るわせるのは人間の耳に届く時に再構築される。
このレコーディング目的の音の再生は制作側の意図を理解しにくい。
どうすれば制作者の糸を組むことができるのか。
それを見つけることによって、音楽が再生、本当の意味で生き返る、いや、生まれる気がします。
制作の環境と再生の環境は異なります。
インナーイヤーにノンイコライザーは理想であっても、正しいか。
制作時の音響環境を取り戻すことが、手に入れられればと考えています。

富田さんのイーハトーヴ・シンフォニー、
ミクオペラのThe Endももう少し生きた音が聴こえないかと思っています。

【REI】
例えば、フラットな特性のスタジオモニターや、
音楽制作用のモニターヘッドフォンで音楽聴くと、
制作者の細かい意図は見えやすいです。
逆に、そのタイプのモニターは聴いていて一番疲れやすいですよ。
制作者の環境=気持ちが良い音、とも限らないのが難しく、面白いところ。
イヤホンは、そこそこ高価なものでもデフォルメされた音質のものが多いという印象です。

制作視点だと(限定された用途向けの場合は除いて)複数のモニター環境でチェックして
平均的なところで仕上げる、というのは定番です。
僕は、外のスタジオで仕上げる時に自宅のオーディオテクニカのヘッドフォンを持っていって、
最終チェックはそれでしています。
これで何年も色々な音源を聴いているので、他の環境で鳴らした時にどうなるか
という予想がしやすいからです。
そのヘッドフォンが優れている、というより慣れなんですよね。

聴き手としてはある基準を自分の中にもっておいて、
イヤホンや圧縮で音が変わった時にはEQや脳内で補正していく、しかないような気もします。
というか、そこが聴き手側に委ねられている音楽の楽しみ、ということかもしれません。
脳に直接ケーブルを繋げて、音声データを再生する時代がくるまでは。

【N.A】
脳に直接ケーブルをつなげる、端山先生がおっしゃっていましたね。

CDは読み取り、D-A変換の能力も音に影響を与える。
となると、インターネット配信がベスト?そこにも機器の特性が左右しますよね、多分。

制作者側でも、制作と確認では音が違っているということですね。
作曲家と演奏者という役割分担と同様の問題が音楽には昔、
楽譜が登場した頃から存在していたということと、
繋がりますね。

【REI】
細かいこと言い出したら、電源一本で音が変わるわけですからね…
今だと、ネット配信やクラウド上のWavやハイレゾ音源を
iPhoneのイヤホンジャック経由で聴く、というのが共通分母かも。
それが音が良いかはともかく…

【K.F】
私が気になるのは音楽における「音色」というのはどの程度重要なものなのでしょうか。
私は正直 N.Aさんほどは音色は気にしていないです。
音域は狭くて聞こえるべき音が聞こえないというのは困ってしまいますが。
ただホールで聴く音楽と、家のステレオで聴く音楽と、
歩きながらヘッドフォンで聴く音楽を同列に語る必要があるのかな。
私が今一番気に入ってるのは1930年代のSPレコードなのでそもそも音質の話には乗りません。
しかしその録音の中から今の録音にはない何かを感じるのです。
一番いいのは直接カッティングしていた時代の録音かな。
人間は頭の中で補って聴いてるんだよね、きっと。

【REI】
音色をどこまで重要とするかは、聴き手の「聴く行為」の主体性と、
その深度に左右されるのではないでしょうか。

例えば純粋なサイン波で作り上げられた
(そのことに作者が意味をもたせた)音響作品だとしたら、
歪みのある再生環境ではその意図を組むことは難しい。
微妙〜な空間の定位をテーマに作られた作品を、
モノラルスピーカーで聴いても意味がわからない。
クラシックでも、メロディやハーモニー、楽譜上の構造を聴く場合もあれば、
演奏者の呼吸による弦楽器の倍音の変化の仕方を顕微鏡のように細かく聴く姿勢もあります。
現象としての音そのものを聴く、音から生まれるイメージを聴く、
グルーヴを聴く…どれも聴き手の意識の問題です。制作者も聴き手の一人です。

ミニマルミュージック以降ですか?サウンドアートの作品とかって、
制作者の意図とは別に、空間や聴き手の意識に委ねられるところが大きくなりましたよね。
現代の音楽の聞き方って、それの延長のような気がしています。
聴き手の意識のフィルターを通ってようやく、音楽が成り立つのではと。
なので、K.Fさんのおっしゃるように「同列に語る必要」は無いのでは。

それと、制作者と同じ音を聴く、フラットな環境を共有する、
というのはまた別の話になりますが…

【N.A】
SPレコード自体既にフィルターがかかっていますよね、CDからみれば。
そのCDある周波数範囲以外はカットされています。
レコード再生では針の選択、スピーカーの置き方など
良い音への探求は熱心であると理解しています。
私の議論の対象であるイコライザーの話、ある音をいかに再生するかについては、
この針の選択、スピーカーの置き方などに対応するものと思います。
ミニマルについては、図太い音で聴くには辛いものがあります。
グラスのシンフォニーは良い音環境での鑑賞に耐えられる作品です。
アメリカンをきどってモノラルラジカセでというのもありかもしれませんが、
クラシックの聴き方ではないようで、ファッションと考えたいですね。

【K.F】
今回の議論はとても有意義ですね。
今回自分の音楽の聴き方を改めて考えてみたところ、
特にピアノがそうなんだけど音楽を聴くと言いながら
リズムとかフレーズとか奏法とかに注目して聴いているようです。
なのでSPレコードでも割と苦も無く聞けてしまうのかな。
やはり音楽の聴き方は人の数だけあるということですね。